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結局、ワクチンで新型コロナの感染や死亡はどれぐらい防げるの? 国内外で示されるワクチン効果

新型コロナ第8波の本格的な流行を前になかなか伸びないワクチン接種率。「本当に効果があるのか?」と疑問視する声もある中、ワクチンがどれぐらい感染や死亡を防いだのか示した研究者にインタビューしました。

新型コロナウイルスの第8波が本格的に広がりつつある中、専門家は健康被害を減らすためにワクチンの接種を強く呼びかけている。

一方で、「ワクチンにどれだけ効果があったのか」と疑問を投げかける人も多く、副反応を避けたい気持ちもあるのか、接種は伸び悩んでいる状況だ。

結局、ワクチンにはどれだけ感染者や死亡者を減らす効果があるのだろうか。

そんな研究を論文にまとめ、世界中の研究を把握している京都大学医学研究科の茅野大志特定助教にBuzzFeed Japan Medicalはインタビューした。

※インタビューは11月15日に行い、その時点の情報に基づいている。

ワクチンを受けた人の恩恵をデータで示したい

——先生がランセット誌の西太平洋地域版 に出された論文「Number of averted COVID-19 cases and deaths attributable to reduced risk in vaccinated individuals in Japan(ワクチン接種のリスク低減効果によって防がれた日本の新型コロナの感染者と死亡者数)」を読みました。ワクチンが感染者や死亡者を減らす効果を数字で見える形にされたわけですが、なぜこの研究を行おうと思ったのですか?

研究室のメンバーで毎週、面白い論文を紹介し合っているのですが、僕が見つけて紹介したのがコロナに関して世界で初めて、集団へのワクチンへの効果を示したイスラエルの論文でした。

その論文にヒントを得て、日本でもワクチンの集団への効果を示す必要があるだろうと思って取り組んだのがこの論文です。

——ワクチンの効果に疑問を持つ人はたくさんいます。そういう人たちに伝えたい気持ちはありましたか?

もちろんそういう思いはあります。

そんな難しいことをやっている論文ではありません。単純に、ワクチンをうった人とうっていない人を比較しただけです。誰でもわかるシンプルな方法を使って、感染者や死亡者の数に差が出るのはわかりやすいですよね。

ワクチンの効果を目に見える形で評価して、ワクチンを受けた人はどれぐらい恩恵を受けているのかをデータで示すことは重要だと思っています。

「ワクチンの効果」の出し方は色々ある

まず、私たちの研究結果を紹介する前に、「ワクチンの効果」を示すのに色々な方法があることを説明させてください。

「ワクチンの効果」というのは、主に2種類に分けられます。

一つ目は、自分が感染する確率がどれほど下がったか、重症化する確率がどれほど下がったかなど個人レベルの評価を行う「ワクチンの有効性(efficacy)」と呼ばれるもの。

もう一つは、ワクチン接種によって感染者や死亡者がどれぐらい減ったかなど、集団レベルでの評価をする「ワクチンの効果(effectiveness)」と呼ばれるものです。

この「ワクチン効果」をアジア・太平洋地域で初めて出したのが、僕たちの論文です。

さらに、感染症に関して言えば、自分が感染すると人にうつすので、自分のリスクと他人のリスクは無関係ではありません。

感染者が多い集団の中にいる人と、感染者がほとんどいない集団の中にいる人のリスクを比べたら、感染者が多い集団にいる人の方がリスクが高くなります。

そしてワクチンをうった人が多い地域に住んでいる人は感染のリスクが低くなりますし、ワクチンをうっていない人が多い地域に住んでいる場合は感染のリスクが高くなります。これをワクチンの「間接的な効果」と言います。

——「集団免疫(※)」のような感じですかね?

※集団の中でワクチンをうった人が増えることで、うっていない人もワクチンが防ぐ病原体から守られる効果

はい。感染する機会が間接的に少なくなって、そうした効果が集団レベルで積み重なったものが集団免疫という考え方です。

「ワクチン効果(effectiveness)」を評価するうえでは、「直接的な効果」「間接的な効果」に分けることが重要です。

「直接的な効果」はワクチン接種によって、直接的に回避されたリスクとも言えます。単純に接種者と未接種者を比べた時に、どれだけ感染するリスクや死亡するリスクが異なるのかを見るのが直接的な効果です。

「間接的な効果」は、直接的ではないけれど、集団でワクチンをうった人が多いと、その集団にいる人が感染しにくくなるという効果を評価するものです。

「直接的効果」はデータさえあれば推計やすく、今回、僕たちが示したのは「直接的効果」です。「間接的効果」は、ワクチンがなかった場合の影響を、ワクチンがある現実と比べることで求められることが多く、さらに踏み込んだ推計が必要です。

1回目、2回目の接種プログラムの効果を推計

——それでは先生の論文の内容について伺います。2021年3月から11月の接種率や確定発症者数、死亡者数を分析しています。これはどういう期間ですか?

いわゆるワクチンの最初のプログラム、1回目と2回目接種の効果に絞って見ています。ワクチンの初回が始まって、第5波が終わった11月末頃までの推定になっています。

日本では2021年2月から医療従事者の接種が始まり、4月から高齢者、持病のある人を優先した接種が始まっています。12月になると3回目のブースター接種が始まって複雑になります。また、ちょうど第5波が落ち着いてきたタイミングでもありました。

この間、アルファ株からデルタ株への置き換わりが進み、2021年7月から9月にかけての第5波の流行は主にデルタによるものでした。

ワクチンによって防がれた確定発症者数、死亡者数を、ワクチンを少なくとも1回はうった人とワクチン未接種者との比較から求めました。

ワクチンによって56万人の感染、1万8000人の死亡を回避

こちらが結果です。

男女別、年齢群別のワクチンによって防がれた発症者数と死亡者数です。

ワクチンによって防がれた発症者は、男性で27万1300人、女性で29万3297人で、男性で1万938人、女性で7684人の死亡が防がれたと推計されています。

発症者数、死亡者数ともに高齢者の予防効果が最も大きく、65歳以上では、男性で10万3637人、女性で12万5313人が発症が予防され、男性で9487人、女性で7277人の死亡が予防されたと推定されます。

面白いことに、防がれた数は性別によっても差が出ました。特に、15歳以上のグループすべてで、死亡が防がれたのは男性の方が多いです。

——なぜですかね?

これらの数値は予防接種だけではなく、感染者数のボリュームなどにも影響されます。たとえば、25〜44歳の男性では同じ年齢層の女性よりも発症者数および死亡者数が防がれたのは、社会的な活発な行動を考えると、妥当だと思います。

また、生物学的な理由で男性の方が重症化しやすいことを指摘している研究もあります。ワクチンの死亡予防効果も、重症化しやすい男性の方でより多く現れた可能性が否定できません。

ワクチンへのためらいは実は女性の方が高いという報告もあるのですが、実際は2021年11月末時点ではワクチンの接種率は同等か女性の方が高めです。推計の男女差にはそんなことも関わっていると思われます。

総数で見た数字がこちらです。

青い線が実際に観察された数、赤い線がワクチンがなかった場合、つまり「反実仮想」のシナリオの推計値です。観察値と推定値(防がれた数)を足し合わせたものになります。青い線と赤い線の差がワクチンが予防した発症者数と死亡者数になります。

ワクチン接種によって56万4596人の発症者が、1万8622人の死亡者が防がれ、それぞれワクチンのおかげで33%、67%減少したと推定されました。

流行がより大きくなれば感染者数も死亡者数も増えますので、ワクチンが防ぐ効果もより大きくなることが考えられます。

他の対策の効果の影響は?ワクチンの免疫低下の影響は?

——緊急事態宣言など他の公衆衛生対策については考慮していないということなのですが、ワクチンをうった人は予防意識が高く、他の予防策もしっかり行って感染を防いでいることが考えられます。その影響は除外しなくていいのですか?

そこはワクチンをうった人もうっていない人も同じような行動をするという仮定で推計しています。

ワクチンをうつ・うたないで行動がどう変わるかは、日本ではきちんと数値化されていません。ワクチンをうっている人がより行動を抑制するという見方もあれば、ワクチンをうっているからもう大丈夫と行動が緩む可能性もあります。

両面考えられると思います。たとえば、「2回目うったから飲み会に行こう」「もう旅行に行ってもいいかな」という話があったと思います。

——ワクチン接種から時間が経つにつれて免疫が減弱する影響については今回、検討しなかったと書かれていますね。考慮しなくてもいいのですか?

接種プログラムが始まったのが2021年2月で、接種が加速したのが6〜7月です。観察期間は11月までなので、減弱の影響はそこまで大きくないと考えています。

それに、ワクチン接種者と非接種者のリスクの比較により推定を行っているので、仮にワクチン接種者の免疫効果が大きく落ちていたとしたら、接種者のリスクが高くなったと推定されます。両者の差は小さくなって、防がれた数はより少なく推定されるでしょう。

ですので、たとえば接種者のうち免疫効果がなくなった人を除くと、両者の差はさらに広がるはずです。

オミクロンに置き換わった今、研究結果を当てはめられるか?

——今はオミクロンに置き換わっているので、デルタ株へのワクチン効果を見たこの研究を現状に当てはめることはできないじゃないかと指摘されそうな気もします。それに対してはどう答えますか?

ご指摘の通りのところはあります。この研究では、あくまでもデルタ株流行までに関する効果を見ているので、オミクロン株に対するワクチンの効果や免疫の減弱を考えると、感染や死亡を防ぐ効果はもっと少なくなることも考えられます。

ただ、ワクチン効果はマイナスにはなりません。さらにブースター接種が始まっているので、落ちた免疫を上げる効果がまた考えられます。

人口レベルで免疫を保持している人の割合が減っていく中で、ブースター接種によってまた感染・死亡リスクが下がる。しかし、オミクロンや、オミクロンの亜系統が出てきて、ワクチンの効果は変化していく。

ですので、免疫の様相が非常に複雑になっていることは間違いないです。

——ワクチンの効果がそういう変化で減るとしても、感染や死亡を減らす傾向にあるのは変わらないですよね?

流行規模はどんどん大きくなっていますし、人口レベルで見た場合、ワクチンの効果が落ちたとしても感染や死亡を予防する数は決して無視できないレベルになっていると思います。

——それを考えると、ワクチンの影響はむしろ大きくなっているかもしれないですか?

大きくなっている可能性もあります。流行サイズが大きくなると、それに伴ってワクチンによる効果も大きくなるからです。

ただ、今は感染によって免疫を持っている人も多数います。ワクチン接種者とワクチン未接種者それぞれの中に感染で免疫を得ている人がいるわけです。

この論文ではまだ感染を経験した人々が少なかったので、その割合を考慮はしなかったのですが、今後、同様の研究をする際にはより慎重に評価をする必要があります。

オミクロン株で感染した人が増えた今は、自然感染を経験した人々も考慮しなければいけない要素になりそうです。

海外のワクチン効果の研究は?

——海外でも、先生が研究のヒントにしたようなワクチンの直接的な効果を見た論文はあるわけですね。

基本的には1次接種の効果を見たものが多いです。ヒントとなったイスラエルの論文は、世界で初めてワクチンの直接的効果を洗練された形で出した論文です。

ワクチンを少なくとも1回うった人のリスクと、うっていない人のリスクを比較しています。

ワクチンの効果によって、感染者数は33%、死亡者数は63%減っています。

——先生たちの研究の数値とほぼ一致しますね。

そうです。ただ罹患率でみると、イスラエルの方が感染者も死亡者もかなり高いです。緊急事態宣言の効果や、マスクや自粛の効果が流行規模に関わったからか、日本の方が人口比の感染者数も死亡者もかなり低いです。

こちらはイタリアでの研究です。

インフルエンザのワクチンに関して、死亡を回避できた人の数を推定した時に使われた研究にヒントを得て行われた研究です。

ワクチン接種者と非接種者を比較しているわけですが、イタリアの場合は、特に入院やICU(集中治療室)入室を減らす効果に注目しています。

ワクチン接種によって、約8万人の入院、1万人のICU入室、約2万2000人の死亡を防ぐことができたとしています。

イタリアは初期に医療崩壊が起きましたが、もしワクチンがなかったとしたら、もっと厳しい状況になっていただろうと示している論文です。

ヨーロッパでもワクチンが60歳以上の半分の死亡を予防と推計

同じ手法を使って、ヨーロッパ各国でワクチンが60歳以上で死亡を減らした効果を見た研究がこちらです。

国によって差はあるのですが、60歳以上の約半分の死亡を減らしたと見られています。

——国による差は接種率の差なのですか?

接種率の差もありますし、流行規模の大きいところはそれだけ多くの死亡が見込まれますので、それによっても違います。

次は、ワクチンの間接効果を調べた海外の研究を見てみましょう。

(続く)

【茅野大志(かやの・たいし)】京都大学大学院医学研究科特定助教

2014年、酪農学園大学獣医学部卒業。北海道やウガンダで大動物の臨床獣医師として働いた後、北海道大学、リヴァプール熱帯医学校を経て、2020年8月から現職。

専門は、感染症疫学。厚生労働省新型コロナウイルスクラスター対策班で流行データ分析に取り組み、現在も新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードなどに分析資料を提供している。