地表の掻き傷 Scratches on the Ground
2022.01.28-02.02
展覧会「地表の掻き傷」
|東京藝術大学 卒業・修了作品展 大学院美術研究科修士課程
Exhibition “Scratches on the ground”
| Tokyo University of the Arts Graduation Works Exhibitions Faculty of Fine Arts Masters degrees
地へのイリュージョン
Illusion to the ground
2022
キャンバスにアクリル
Acrylic on canvas W1620×H3240mm
地表の掻き傷
Scratches on the ground
2022
3Dプリンター、シリコン、iPad によるプロジェクション装置
projection with 3D printer, silicon hand, iPad
100年の機械
A centenary machine
2022
video 8m47s
出演・撮影協力:角野理彩
技術協力:吉田晋之介
機材提供:油画技法材料研究室
テキスト引用元:フランツ・カフカ『流刑地で』(原田義人訳)
「地表の掻き傷」とは、GoogleMapの衛星写真の中で見つけた「ある特徴的な線の集合体(=地表の掻き傷)」をテーマに、現在の風景画の制作を試みる作品である。
まずはこの模様をご覧いただきたい。(→こちら ※航空写真のモードでご覧ください。)
「地表の掻き傷」という名称は、その線の集合体が自分の肌に起こる掻き傷(ミミズ腫れ)のようなテクスチャを持っていることから名付けられた。
私はその写真に写る模様を見たとき、「これが風景なのだ」と強く感じ、GoogleMapで次々と見つかるそれらをひたすらに収集、保存していくことに魅入られた。そのような行為の中で、Google Mapから現代の風景表現を再考するきっかけを得た。そうして生まれたのがこの作品である。
私たちが想定する「風景画」を描くために必要なものはまず「風景」であるが、それを見に行く「移動」の行為、そしてその場に立ち風景を眼差す「描き手の身体が立つ場所」もまた必要とされる。そのような、風景と、風景を受容する経験にGoogleMapは大きな変容をもたらした。
衛星写真による地図が実現し、「風景」は平面的で魅惑的な模様となった。そこには「地表の掻き傷」と呼べそうなうねった線の集合体が出現している。衛星写真に写っているその模様がなんであるか知りたいと思っても、リンクが存在していない。あるのは位置情報のみである。その模様をいかなるワードで検索しても、その模様を名指す言葉がわからない。通常の地図上のスポット(主要な駅や商業施設など)に比べ、あまりにもデータベースとの結びつきが弱い。広大な土地を持ってこの世界に出現しているにも関わらず、地図というデータベースの中でヒエラルキーの下層に位置している。また、その模様がなんであるか知るために現地へ赴いたとしても、それは広大な地表に現れているテクスチャにすぎないため現場で立って視認できるかはわからない。「地表の掻き傷」はこの垂直性と高度を持った視点によってのみ経験できる。
「移動」は、今や点と点を把握していれば可能になるもので、予め地図で地形全体の連続性を掴んでおく必要はない。しかし「地表の掻き傷」を衛星写真の中から次々と見つけ出していくためには、衛星写真を隈なく見続けていくような行為が必要であった。それはスワイプによる指先の動作に代わった「移動」ではないだろうか。スケールから解放され、平面的な風景の連続性を感覚することになる。
では「描き手の身体が立つ場所」はどこに行ったのか。
重要視しているのはGoogleMapの衛星写真は私の視点ではないということである。衛星、航空機、ドローンなどによって可能になった視点であり、それらは上空に外部化されている。そして、その上空の視点は、地図を見ている私を見ることが可能な技術である。
自然主義的な風景画は遠近法の原理に基づいていたが、その遠近法を機能させる水平線は、上空から垂直に眼差された風景の中には存在しない。土地に立った描き手の視点を頂点として、キャンバス越しに対象物を据える、いわゆる「視覚のピラミッド」もこの取り組みの中では解体される。そのピラミッドの頂点は衛星に明け渡され、描き手の主体はそのピラミッドの中に位置づいている。
風景画というジャンルには「描き手の身体が立つ場所」を読み取りやすいことから自己言及的な性格がある。しかし、今日の風景画において、その自己言及的な性格、描き手の二重性は、衛星、航空機、ドローンの技術により最も強まっているのではないか。
作品「地表の掻き傷」はそうした「風景」の変容を絵画におこす。また、その風景を獲得するための途方もないスワイプによる「移動」を3Dプリンターによるプロジェクション装置にて再現し、そして「描き手の身体が立つ場所」を「100年の機械」という映像で表現する。現代の地図から風景画をうむ身体像は、一層混濁した主客関係の中に見出せるだろう。そして、その身体は目で見ると同時に肌=「地図の表面」で知覚している。この3つの要素によって組まれたインスタレーションが「地表の掻き傷」という作品である。
Google Mapのマイマップ「地表の掻き傷」へのポータルサイトで、また別の写真とテキストによるアーカイブを載せています。どうぞこちらもご覧ください。
2022年修了制作「地表の掻き傷」展覧会協力
設営(五十音順):角野理彩, 龍村景一, 津村侑希, 油画技法材料研究室
機材提供:油画技法材料研究室
写真:松尾宇人
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