『フレバンス決戦に(ウタに堕とされた)麦わら屋は来れなさそうだな……いや来たわ、彼女連れで』3

『フレバンス決戦に(ウタに堕とされた)麦わら屋は来れなさそうだな……いや来たわ、彼女連れで』3





その3(終)




ちょっとグロいので閲覧注意。






ドフラミンゴ曰くの『宿主になっちまったら生殖本能と快楽が、どうしようもなく高まる』

というのは、現状の寄生パンデミックに於いて、ほぼ例外の無い事実であると言っていい。


ある程度は意思の力で制御できたとしても。

愛や常識や倫理や道徳、誇りや信念で耐えたとしても。

その限界値を超えた途端、脳を虫に侵された者達は豹変する。


ましてや、七武海で最も危険と評された狂気の男が感染したとして。

自身の王国を壊されて多大な負傷を受け、その肉体の大半をヒトの体でなくしてしまい。

怨敵二人を前にし、その片方の恋人を捉えたとして。

いくら凶悪な海賊とは言えど『そうなる前の彼』なら『そこまではしなかっただろう外道』に走るのも、当然の流れと言える。


とはいえ。

彼と負けず劣らず数奇な運命を辿り、太陽神の加護を宿す少年が『物語の主人公の如く』に少女へ駆けつけるのも、ある意味で当然。


「ウタに――――」

入り口の影から飛んできたそれに、聴覚を封じたドフラミンゴは気付けなかった。

広い室内各所に張り巡らせたセンサー兼トラップの糸は減速の役目さえ果たせず引きちぎられる。

彼曰くの『どうしようもなく』高まった性的興奮も、冷静さを失わせ察知を遅らせた。

結果。

とっさに顔を上げた所に。


「――――触れるなァァァァァァァッ!!!!」

砲弾の如く突っ込んできたルフィの、ギアを上げた超威力の拳が突き刺さった。


「…………ッ!!?」

頭部と上半身を半ば吹き飛ばされ、声を発する事すら出来ず最奥の壁面にドフラミンゴは全身を叩きつけられた。

高所から落下した果実のように、全身をひしゃげさせて貼り付いたその体。

数秒の間を於いて壁面をゆっくりと滑り落ち、ベシャリと床に落ちた様は、叩き潰された虫のようだ。


それでも。

ドフラミンゴはゆっくりと、痙攣して体液や幼虫を零しながらだが、うつ伏せから立ち上がる。

奥のコンテナや物陰に補給タンクとして隠しておいた、犠牲者達の加工肉体(ローヤルゼリー)に触手を伸ばし、栄養を吸い上げて。

負傷箇所も、衣服も、吹き飛んだサングラスまで再生を始めた。

絶対に目を見られたくないからこそ、彼は装飾品から衣服まで全身を変形させた肉体で再現していた。


「ウタァッ!!」

ルフィはウタの拘束をブチブチと引きちぎり、羽織っていたコートを掛ける。

心身のダメージを抱えながらも、ルフィを目にしたウタの表情は、途端に苦痛から陶酔へと変わった。

「あ……来てくれた。 やっぱり、来てくれるって」

「いい! 喋らなくていい! ごめんなウタ!! やっぱり俺が――」

ルフィの言葉を自身の唇で遮って、ウタは微笑んだ。


「大丈夫だよ、このくらい……やっぱりルフィは、私の『光』だもん、ね……♡」

「光?」

「ううん、なんでもない。 あ、それと――あいつに『されてない』から、大丈夫、だよ……♡」

「…………!!」

いじらしい報告に、上手く言葉の出なかったルフィは、ただ最愛の少女を抱きしめた。

「んむ!? いふぁいよンフィー!?(痛いよルフィ)」


その状況下で、二つの要素が割って入る。


「遅くなって、悪かった」

疲弊の色が滲むロー。


もう一つは。

爆発音と揺れ。


「そこまでになっても死ねねェんだな」

ローの視線の先で、再生を続けていく男。

その姿を見て、どこか悲壮と憂鬱さを帯びた声でローは続ける。


「あちこち回って爆薬と燃料をかき集めて、工場中に爆弾を仕掛けてきた。

良くて心中、悪けりゃお前だけ木っ端微塵だ」

再生途中のドフラミンゴから視線を外し、ローの視線はルフィ達へ。


「二人で出て行け、麦わら屋」

「トラ男!! 何言ってんだお前ェ!!」

「積もる話だってある。 ここまでやってくれりゃあ、もう十分だ」

食い下がろうとするルフィの袖を、ウタの指が弱く震えながら掴んだ。

「……行こ? トラ男くん、あんまり役に立てなくて、ごめんね」

軽く左右に首を振って否定するローと、沈黙したルフィ。

ローは続ける。

「汚え手でベタベタ触られて怪我もしてる――そっちの船医に診てもらえ、急ぎでな」



何かを察したルフィが「お前だって医」まで言いかけた瞬間。

「ROOM シャンブルズ」


分厚い壁の向こう、工場の外へ二人を飛ばし、残されたのは小石が二つ。

それらに向けて、ローはボソリと呟いた。

「付き合わせて、悪かったな」


ローの視線は改めて室内の奥、視界の隅で蠢いていた男へ向かう。

「……!!」

瞠目した。

再生どころか、ドフラミンゴの肉体は糸と触手の混在した塊と化し、人型のサイズと輪郭を逸脱している。

まるでその姿は『釣り上がった目の、巨大な桃色の蜂』の様に見える。

驚きに喉を鳴らして、しかし苦笑したローは、怪物へと歩を進める。


「色々あったな、恩も、恨みも」

ローは怯まず、怨敵の成れの果てへ、笑みさえ浮かべて歩を進めていく。

もはやドフラミンゴ本来の頭部は巨体に飲まれるように消え、会話は成り立たない。

「言いたい事も聞きたい事も、山程有る」

更に距離は縮んでいく。


「久しぶりに、飯でも食いながら話そうか」

眼前で怪物は変異を続けるのみで、ローの言葉には反応が無い。

せいぜいが『もう少しで動ける、そうしたらお前を殺して食う』程度の意思しか読み取れない。


再生速度の割に動きが緩慢なのは、急激な発達に内部が追いついていないのか。

または、ウタと戦い身体を触り続けた事で、鱗粉の神経毒が作用しているのか。


と、わずか数メートル程度の距離を残してローは足を止めた。

ポケットに手を突っ込んで、取り出したのはライター。


今日のローは普段と異なる服装をしていた。

ドフラミンゴが常に羽織っている物と同型の、しかし桃色ではなく黒色のファー。

因縁ある二人を繋ぐ『ある人物』が愛用した物に酷似していた。


何の躊躇いもなく――ローは羽織ったままの黒いファーに火を着けた。

燃え上がる黒を前にして、異形の怪物は激怒したかのようにギチギチと鳴く。


宿主の『死の覚悟』と炎により、ローの体内で寄生虫がパニックと暴走を起こす。

ローの全身は波打つように痙攣を起こし、服の下では触手が体を突き破った。

眼球は色を変えながらめちゃくちゃに動き回り血涙を流させた。

顔の下ではデタラメに流れる体液と幼虫で白い筋が蠢き、痙攣した筋肉は笑みのような表情を浮かべさせ――


「バーベキュー、好きだったよな……!!」


邪悪な虫を焼き尽くす炎を纏い、刀を構えてローは突貫していく。

連続する爆発音。

白い工場が、炎を噴出しながら崩れていった。

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