『フレバンス決戦に(ウタに堕とされた)麦わら屋は来れなさそうだな……いや来たわ、彼女連れで』1
その1
ちょっとグロいので閲覧注意。
世界各地で多発する寄生虫パンデミック。
その多くに関わっているドフラミンゴを探し続けたローは、ついに居所を突き止めた。
そこは因縁の地、フレバンス。
本来であれば多くの勢力から強者達が参戦できた筈だったが、
前述のパンデミックが途絶える事なく起き続けていたせいで、ローは単独での突入を覚悟する事態となっていた。
……と思ったら、寄生蛾の歌姫に籠絡されていた筈のルフィから『待ってろトラ男』との連絡があり、待ち合わせという事になった。
ルフィがウタを連れての参戦、というアクシデントこそあったものの――いや実際の所はまだ予定外があった。
ウタの背後に『虚ろな目で「シンジダイ……」「ブチ、破る……」と呟き続ける武装集団』も来るなんて予想外もあったのだが。
敵か、と警戒するローにウタは笑っていう。
「どんな罠があるかわからないんだし、人手は居るでしょ?……見覚えないかな」
促されてローが集団をよく見ると、確かに見覚えのある者達だ。
「こいつら、何度も俺や麦わら屋を襲ってきた奴らか?」
ウタの連れてきた人手は、ドレスローザの件から今に至るまで、何度となく襲撃してきた『ドフラミンゴの取引相手達』だった。
それも寄生されていない通常の人間のまま、ルフィ達を行く先々で襲ってきたという特徴がある。
恐らく動機は、闇のブローカーとして暗躍していたドフラミンゴを倒しファミリーを瓦解させた事への逆恨み。
もしかすると『超人への片道切符』と言えなくもない寄生バチをエサにされて、けしかけられたのかも知れない。
その返り討ちにしてきた連中が、無表情にブツブツと呟きながらウタに付き従っている。
「私の、蛾の力でちょっとね。死んでも裏切れないから心配ないよ」
「……そうか」
ウタの倫理観に何か言おうとして諦めた表情でローは会話を切り、
「俺たち3人と、あとはそいつらだな。 じゃあ……行くぞ!!」
果たして、ドフラミンゴが根城にしていたのは巨大な『元』兵器工場の廃墟だった。
襲い来るドフラミンゴの手勢――例外なく寄生者だった――を蹴散らしながら進む。
しかし、その数が尋常ではない。
ドフラミンゴの各地での暗躍を裏付けるように、海兵やあらゆる海賊団、果てはスラム街の住人だったであろう者達までが、
工場内に遺棄されていたであろう銃火器・工具・資材を武器に、狂乱の暴徒と化して絶え間なく湧いてきた。
生半可なダメージでは平然と起き上がるそれらをルフィがなぎ倒し、ウタが神経毒の鱗粉や歌で昏睡・麻痺させ、ローが斬り捨てていく。
尚対処しきれない物量には、ウタが連れてきた兵たちが応戦。
無音の死んだ街で、工場内だけが怒号と破壊音に震え続けていた。
とうとう、最深部に辿り着く。
サニー号どころか海軍の軍艦が何隻も入りそうな巨大な一室。
倉庫だったのか巨大兵器の製造エリアだったのか、しかし今や多少の資材やコンテナ群は残されただけの場所で。
積まれた鉄骨に腰を下ろし、男は嗤う。
「フ、フフフ……!! 一番乗りがお前とはな、他はどうした?」
「はぐれた。 でも、すぐ来ると思うよ」
一番乗りでドフラミンゴと対峙したのは、運命のいたずらと言うべきか、何の因縁も無い筈のウタだった。
「……ほお、そうか。 じゃあそれまで」
「うん、私の歌でも聞いて――ッ!?」
直後。
天井に吊り下げられていた資材や、ウタの周囲にあったコンテナ・鉄骨等が、ウタ目掛けて圧縮されたように突っ込んだ。
工場内全域に響き渡る、大音量。
重い大小の金属が高速で激突しあい、折れて割れて潰れて捻曲がる不快音。
イトイトと触手の力で操作された物品が、即死の罠として作動したのだ。
「それまで楽しませてくれ、と言うつもりだったんだが……おい、この程度で死んだのか」
ウタの居た地点には、金属製の奇怪なオブジェが出来上がっていた。
その隙間からは惨憺たる結末の赤が、床を流れて汚していく。
「まさかぁ♪」
背後からの声にドフラミンゴが振り向くと。
嗜虐に歪んだ笑みのウタが立っており――それを認識した瞬間、ドフラミンゴの体は物陰や粉塵に紛れて突き出された無数の刀槍で貫かれた。
「フッ、ぐ……ッ、どうなって、やが……ァ……!!?」
ドフラミンゴの背後、グシャグシャになった鉄塊からズルリとはみ出た顔は、ウタの連れてきた集団の一人。
もちろんドフラミンゴを凄惨な有様にしている刀槍の担い手は、いつの間にか入りこんでいたウタの手勢達だ。
「さあ? 何がどうなったんだろうね?」
とことんまでバカにしきった声色で告げるウタに、ろくな返答も出来ぬまま――ドフラミンゴは倒れ伏した。
「切り刻んで。 トラ男さんには悪いけど、さっさと燃やすから燃料とかも探してき」
拍手。
ウタの指示を寸断するように、拍手と含み笑いが響く。
「フッフッフッ……幻覚か、催眠か。 身代わりを平然と死なせ、俺をハリネズミにしてバラして火葬の命令。
『世界の歌姫』とやらは可愛い顔で恐ろしい事をやるもんだ……!!」
上方の足場から、もう一人のドフラミンゴが姿を現す。
しかしウタは動じない。
心底不快でつまらなそうに、
「はいはい、この死体が影騎士(ブラックナイト)でしょ? ルフィ達から聞いてないと思った?」
切って捨てたウタの憮然とした表情は、
「いやァ……そっちが当たりだ」
驚愕に歪んだ。
吹き上がる殺戮の糸。
触手を交えたソレは周囲を薙ぎ払い、ウタの手勢達を一瞬で切り裂き、叩き潰し、串刺して引き裂いた。
とっさに入り口へ飛び退くウタ。
その背後からは増援の手勢達が虚ろな顔で入ってきた。
上方のドフラミンゴは手すりに腕を乗せ、笑みを貼り付けて喋りかける。
「フフ、この視点から見てるとわかりやすいな。お前の周りから光の粒が出て、似ても似つかない囮とすり替わり、雑魚共が忍び込んできた。
下の俺は何もわからず、囮にハマって針鼠。 それは確実にウタウタの能力」
「――――と関係はないな……フフ」
全身の穴から体液・触手・幼虫を零しつつ、下方の――曰く『当たり』のドフラミンゴが起き上がって言葉を繋ぐ。
頭部を含めた全身に、向こうが見えるほどの刺し傷を負いながら、平然とした調子で。
「……ふぅん、知ってるんだ」
退避する時に負った腹部の傷を抑えながら、ウタの顔が苦々しく歪んだ。
「フフフ、俺に劣らない有名人だからな。 お前が入ってきた時点で聴覚を弄った。 最近覚えた読唇術頼みの一方的な会話で申し訳ねェんだが……」
常人どころか感染者でさえ瀕死の重傷を瞬く間に復元させながら、ドフラミンゴの笑みは鬼気迫るそれへと変貌していく。
「もう隠さなくていいぞ……同類……!!」
その言葉を受けて、ウタの容姿も変貌する。
かつてウタワールドで披露した『私は最強』の衣装、それと似て非なる、戦闘に特化した形態へ。
蛾の繭糸で構成された衣装を纏い、自身の背を突き破って現れる羽を刃として。
「同類? 腐った旧時代の悪党のくせに。 ルフィ達が来る前に――ブッ飛ばしてあげるから」