女子の兵法・小池百合子

世界目指す起業後押し

小池百合子東京都知事(春名中撮影)
小池百合子東京都知事(春名中撮影)

3月2日、東京国際クルーズターミナルに外航クルーズ船が着岸した。令和2年9月のターミナル開業以来、ファッションショーの舞台といったイベント会場に使うなどしたが、海外からのクルーズ船が多数の観光客を乗せて来港するのは、これが初めて。3月だけで6隻の外航クルーズ船の来港が予定されている。

東京が本格的に動き出した。

都は2月27日からの3日間、「SusHi Tech Tokyo」(Sustainable High City Tech Tokyo=持続可能な新しい価値を生み出す都市・東京)を旗印に2つの国際的イベントを同時に初開催した。世界各都市のリーダー級会合とスタートアップ支援イベントである。

パリ、ニューヨーク、アムステルダム、サンパウロ、ナイロビ、バンコクをはじめ、五大陸27カ国・地域34都市の首長らが、環境や包摂・公正、安全安心な都市をテーマに議論。最終日には共同声明を発信した。都市が抱える課題解決に向けて、持続可能な社会の実現を目指す。

都市、なかでも大都会は魚のマグロのようなものだと思う。マグロは常に遊泳することで、呼吸する。泳ぎを止めると窒息する。だから、泳ぎ続けなければならないものの、前世紀型の経済発展は不要だ。気候変動やエネルギー、難民問題など、複雑化する地球規模の課題克服には都市間の連携とともに、新たな力が欠かせない。

もうひとつのイベント「City-Tech.Tokyo」には国内外から多数のスタートアップ企業が集結した。会場である東京国際フォーラムでは空飛ぶクルマの本体や、約400のブースが所狭しと並び、新技術や新サービスを展示。投資家や大企業とのマッチング活動が行われた。世界的に有名な投資家、ベン・ホロウィッツ氏や創薬ベンチャーで知られる久能祐子さん、後藤茂之スタートアップ担当相らによる講演やパネルで、新技術を生かした課題解決などを巡っての活発な意見交換が展開された。

ちなみに東京都は今後5年間で起業数や官民協働をそれぞれ10倍に増やす目標を掲げ、東京発のスタートアップ育成を強力に後押しする。海外展開のサポートなどを含め、5年間で10億ドル(約1360億円)以上の支援に取り組むつもりだ。

すでに昨年11月、東京発の「ユニコーン」(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)を育成支援するなどのスタートアップ戦略を策定した。海外市場への飛躍を視野にチャレンジャーを支援し、想像力と創造力に期待するものだ。

大学発スタートアップへの資金供給を充実させるため100億円規模のファンドも造成する。まだ資金調達環境が脆弱(ぜいじゃく)な時期を支え、失敗を恐れずに挑戦できる環境を整えていく。公共調達参入も促進し、都政課題への提案もしてもらいたい。

今から120年前の1903年、世界初の有人動力飛行を成功させたライト兄弟は当時のスタートアップのモデルだろう。兄弟は「いま正しいことも、数年後間違っていることもある。逆にいま間違っていることも、数年後正しいこともある」との言葉を残したと伝えられる。

急速に進む少子高齢化をにらめば、これから重要度が増すのは「ブルーオーシャン」という未開拓市場をつかむことができるかにある。従来の延長線上に導かれる答えではなく、ましてや経済規模が縮小していく中で、今あるパイを取り合うことでもない。既成概念にとらわれないためにも、世界に視野を広げてチャレンジしていくことが求められていくだろう。ライト兄弟の言葉に付け加えるならば、「だからこそ失敗を恐れず、挑戦してほしい」ということだ。

孫子の兵法にある「人に後(おく)れて発し、人に先んじて至る。これ迂直(うちょく)の計を知る者なり」は、英知を持って曲がりくねった難しい道を変えることの重要性を教えてくれる。

ライト兄弟の成功から120年後、空飛ぶクルマは実用化が視野に入り、物流ドローンの開発も進むようになった。我が国の未来を「迂直の計」で切り拓(ひら)いていくのは若者であり、子供たちだ。間違っていることもあるかもしれないが、先人たちがそうしたように、たとえ失敗しても挑戦し続ける。国難克服に向けて、国家をあげてチャレンジすることが欠かせない局面を迎えている。

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