医療・ヘルスケア
2018年11月06日

最近の医療費の動向を教えて

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――はじめに ~2016年度国民医療費は42兆円1,381億円

2016年度の医療費が、42兆1,381億円だったことが公表されました。近年、医療費は、毎年平均1兆円(2~4%)程度のペースで増加しています。2015年度は42兆3,644億円で、この1年間は2,263億円(0.5%)減少しましたが、この減少は、高額医薬品の価格引き下げによる一時的なもので(詳細は後述)、2017年度は、再度増加に転じることが見込まれています1

最近の医療費の増加は、主に高齢化と医療技術の進歩によるものです。どういった医療費が高いのかは、「日本の医療費、何にお金がかかっているの?」2をご参照いただくとして、本稿では、最近の医療費の推移を紹介します。
 
1 2017年度の医療費については、はり・きゅう、保険証忘れ等による全額自費による支払、労働者災害補償保険等による医療費を含まない「概算医療費」が公表されており、42.2兆円となっています。概算医療費は、例年、医療費総額の98%程度であることから、2017年度の医療費は43兆円程度になることが見込まれます。
2 村松容子「日本の医療費、何にお金がかかっているの?」ニッセイ基礎研究所 基礎研レター、2018年3月22日

2――医療費の伸び ~高齢化で説明できるのは伸びの半分程度

(1) 診療種類推移 ~増えているのは調剤。在宅医療へのシフトの影響もみられる。
国民医療費は、医科診療(入院、入院外)、歯科診療、薬局調剤等の診療種類別に公表されています(図表1)。2016年度についてみると、およそ42.1兆円のうち、医科診療が30.2兆円(入院15.8兆円、入院外14.4兆円)で最も高く、次いで薬局調剤が7.6兆円と続いています。

2010年度からの伸びをみると、医療費総額で12.6%増加しています。診療種類別にみると、歯科、医科(入院・入院外)が10%程度の伸びであるのに対し、薬局調剤は23.5%と伸びは大きくなっています。また、国の政策により在宅医療へシフトしつつあることから、現在のところ水準は低いものの、訪問看護の伸びは135.4%と大幅に増加しています。
図表1 診療種類別 国民医療費の推移
(2) 疾病種類別推移 ~75歳以上の骨折による医療費が増加
医科診療(入院、入院外)について、医療費総額が多い疾病分類と、その分類に含まれる主な疾病別の推移をみてみましょう(図表2)。最も医療費総額が高い疾病分類は、「循環器系の疾患」の5.9兆円で、次いで「新生物」が4.2兆円となっています。「循環器系の疾患」の内訳は、「高血圧性疾患」、「心疾患」、「脳血管疾患」がいずれも2兆円弱と、この3つの疾病で「循環器系の疾患」全体の9割を占めています。また、「新生物」の内訳は、およそ9割が「悪性新生物(がん)」の医療費です。
図表2 疾病種類別 国民医療費の推移
2010年度からの伸びをみると、「新生物(悪性新生物)」、「心疾患」、「筋骨格系及び結合組織の疾患(関節炎など)」、「腎尿路生殖器系の疾患」、「損傷、中毒及びその他の外因の影響」で増加が10%を超えて著しくなっています。医療費の統計からは患者数がわからないため、患者一人当たりの医療費は不明ですが、これらの疾病は、特に高齢期に多いことから、一人当たり医療費の増加だけでなく、患者数が増加した影響もあると推測できます。同じく、75歳以上の骨折が2011年度からの5年間で4割程度の伸びと大きいのも高齢化によるものと考えられます。

生活習慣病(「悪性新生物」、「糖尿病」、「高血圧性疾患」、「心疾患」、「脳血管疾患」)による医療費は2010年度以降10%程度の伸びでした。
(3) 年齢別一人当たり医療費の推移 ~高いのは高齢者。増えているのは50歳未満。
一人当たり国民医療費(年齢群団別医療費をその年齢の人口で割ったもの)をみると、0~4歳の子ども時代にやや高いが、以降は年齢が高いほど高く(図表3)、80歳以上では、一人当たり100万円近くになります。

医療費の伸びをみると、いずれの年代も、一人当たり医療費は増加を続けています。年齢別に見ると、一人当たり医療費が増えているのは、若い年齢層で、高齢になるにつれて伸びは小さくなっています。ただし、高年齢層は、若い年齢層より医療費の金額が高いため、高齢化にともない、医療費は上昇していると考えられます。
図表3 年齢群団別 一人当たり国民医療費の推移
(4) 医療費の伸びの要因分解 ~高齢化で説明できるのは半分ぐらい
厚生労働省では、医療費の伸びを、人口増(減)の影響、高齢化の影響、診療報酬改定による影響、その他の影響に要因分解を行っています(図表4)。その他は、医療の高度化や患者負担分の変更などと考えられています。

これによると、高齢化で説明できるのは、医療費全体の伸びの半分程度です。残りは、医療の高度化等その他の要因となっています。
図表4 医療費の伸びの要因分解

3――最近のトピックス ~高額医薬品の登場と薬価の抜本改定による価格調整

以上みてきたとおり、医療費は毎年1兆円のペースで増加しています。増加を要因別に分解すると、高齢化で説明できるのは伸びの半分程度であり、医療の高度化等その他の伸びも大きいものとなっています。

医療の高度化の一つとして、高額薬剤の影響があげられます。がん治療薬であるオプジーボ、C型慢性肝炎治療薬であるソバルディとハーボニー等の高額薬剤が相次いで保険(薬価)収載されたことで2015年度の医療費は高騰しました3。これをきっかけに、2016年度以降、試行的な費用対効果や市場規模を考慮した値下げが行われ4、投薬で治癒したことによる患者減も相まって医療費は一時的に減少しました。2019年は消費税増税に伴って全品目の薬価改定が予定されており、2020年にはこれまで同様の通常改定が行われるので、薬価の毎年改定は、2021年以降となりますが、高額薬剤の価格が今後どの程度調整されるか注目されます。

また、最近では、公的保険給付の範囲や内容について適正化し、医療費上昇を抑制しようとする動きがあります。医薬品に対して、高額薬剤の価格調整のほか、後発品(ジェネリック)の使用や不適切な重複投薬・多剤投与等の削減を進めるのはもちろんのこと、湿布やうがい薬等5の症状の軽い患者に使う市販品類似薬を保険給付の適用外とする等の保険給付の範囲の見直しが行われています。
 
3 2015年度は、C型慢性肝炎治療薬であるソバルディとハーボニーを含む抗ウイルス剤で、医療費の少なくとも0.7~0.8%程度を押し上げたと推計された(厚生労働省 第336回中央社会保険医療協議会(2016年9月)等)。
4 詳細は、篠原卓也「医薬品の値段(薬価)は、どのようにきめられているの?」ニッセイ基礎研究所 基礎研レター(2018年4月6日)をご参照ください。
5 2018年度診療報酬改定で、治療目的でない場合のうがい薬の処方や、1処方につき70枚を超える湿布薬の投与は、特に必要な場合を除いて制限されるようになりました。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

(2018年11月06日「基礎研レター」)

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